03.2.14 小石川植物園


ウメ (梅)

  

  

バラ科アンズ属(サクラ属)

学名 Armeniaca mume (=Prunus mume)

原産地 中国

落葉小高木


 ウメの名前は、中国名説、朝鮮語説など諸説ある。あまりに普通に「ウメ」と

使っているので、すっかり日本語名のようになっているが、ウメは中国産の植物で

輸入品であるので、語源も大陸に求めるのが普通かもしれない。

 ウメは、観賞用に日本に持ち込まれたのではない。その実を薬として使うためだ。

それよりかなり以前から本場中国では栽培が盛んだった。その薬効は

「本草綱目(1590)」にも記載されている。しかし、ウメの実はそのままでは使えない。 

ウメの若い実の核には青酸物が含まれている。そのため、子供のころウメの実を木から

もいで食べようとすると「死ぬぞ」と言われたものである。

この青酸配糖体は、梅酒にしたり、梅干しにすると消える。古代人の知恵にはいつも

驚かされるが、それだけこの実には魅力があったということでもある。今や梅干しは

日本を代表する加工食品となっている。この、若い実の核にある毒物だが、そもそも

なぜ、ウメはそこに毒を仕込んでいるのだろうか?これは推測だが、たぶん、この実を

食べる動物に関係あるのではないかと思う。ウメが果肉のある実をつけるのはそれを

動物に食べてもらうためである。そして糞とともに種子を散布してもらいたいと願っている。

ここで重要なのは、果肉は食べて欲しいが、種子は食べて欲しくないということである。

鳥は果実を食べるので植物にとって重要な散布者である。彼らはくちばしはあるが、歯がない。

だからたいていのものは飲み込む。だからウメの実の毒にも関係ない。しかし猿をはじめと

するほ乳類は歯があるので、実の中の種子もいっしょにがりがりとかみ砕いてしまうことがある。

人間も果実を食べるとき、まず最初に問題になるのが、この実の中の種子である。 

だから種無しが喜ばれる。ウメの核の中の青酸は、この歯のあるほ乳類にむけての警告であると

思われる。そしてさらにほ乳類というのは脳が発達し、学習能力を備えているため、この一見

受動的に見える「毒」という警告がちゃんと能力を発揮する。ちなみに同じような戦略は

イチイなども行っている。動物の知能の高さまで考慮に入れた、ウメのすごい戦略と言えるが、

人間はそれを毒消しという方法を用いて克服した。さすが人間と言えるだろうが、今日のウメの

生産と消費は、逆にウメの生育範囲を増やしている。果たして、どっちが勝っているのか。

そして日本人と梅干しは切っても切れない関係というのは、先に言った。すると、ウメも

わざわざ毒など作る必要もなく、おいしい梅干しになる実を作る方向に向かえばよくなってきた。 

栽培がこのまま続けば、そのうち毒なしウメが自然にできるのではないだろうか?

ちなみに、「サクラ切るバカ、ウメ切らぬバカ」と昔から言われるとおり、良い実をつけるには、

ウメは剪定を必要とするし、サクラは切り口から病原体が入り、枯れやすいので切るのは控えた

ほうがよい。しかし、最近ではサクラも適切に切れば、花付きもよくなり、木も丈夫に育つこと

がわかってきた。あまりに有名なこの言葉も、現代では修正を必要としてきたようだ。