03.6.10 小石川植物園


ハナショウブ (花菖蒲)

                                  

アヤメ科アヤメ属 

学名 Iris ensata cv.

原産地 栽培種

多年草


 湿地や草原に生育するノハナショウブ(I. ensata var. spontanea)から改良された

品種群で、江戸時代を中心に品種改良が進み、多くの品種が生まれている。

江戸時代には各地にハナショウブ園が作られ、梅雨時の風物詩として親しまれた。

その時にできた品種群には地方で特色のあるものも独自に作られ、江戸系、肥後系、

伊勢系などの系統が生まれた。 江戸系は集団美を求めて作られた品種群で、主に

ハナショウブ園などで見られるのはこの系統である。 肥後系は豪華な大輪系が多く、

主に室内で一日一日の花の変化の様子を眺めるようにできている。 切り花などに

されているのもこの系統が多いという。 伊勢系は繊細で変化が多く、これも鉢植え

にして室内で観賞するのに適している。 繊細なぶん、日々の花の変化が細やかだという。

 ハナショウブは江戸時代だけでも数百種類作られたと言われるが、驚くべきことは

それがノハナショウブただ1種からのみ作られたということである。 通常、花の変化

を求めるなら近縁の他の種の花と交配し、自然では有り得ない遺伝を作りだすことに

よって得られるものだが、このハナショウブにはそれがない。そして野生のノハナショウブ

が固体変化の多いものかというとそうではない。 一説によると江戸時代の中ごろ、

みちのくの安積の沼に美しい花があり、それから品種が生まれていったという。

その頃は現在と違ってノハナショウブも大量に自生しており、突然変異も多かったのかも

しれない。 それにしても、謎の残る品種群である。

 ノハナショウブ1種からなる品種群だが、近年北アメリカ産のキショウブとの交配が

試みられ、黄色系統の品種が生まれている。 今までに無かった色なので、新しい可能性

として注目されている。 ハナショウブはよく水を張った田のような場所で栽培されて

いるが、実はあれは花時の演出であり、ふだんは水を引いて栽培されている。

栽培するさいにも、カキツバタのように水に浸さず、かといってアヤメのように乾燥

させずに栽培すると良いという。 株がよく増え、そのままにすると株が衰えるので

定期的に株分けが必要である。

 ハナショウブは感じで花菖蒲と書くが、5月の節句に使うショウブ(菖蒲)とは

まったく違う植物である。 ショウブはサトイモ科の植物で、水湿地に生育する。

 カキツバタとよく似ているので混同されやすいが、ハナショウブは花びら(外花被片)

の真ん中の部分が主に黄色なのに対し、カキツバタは白なので見分けがつく。

花期もカキツバタのほうが早い。